ソシエダで成長著しい久保建英だが、レアル復帰、バルサ移籍にはまだ早い理由

これまでにも盛んにあったレアル・マドリード復帰の噂だけでなく、バルセロナ移籍の噂が出てきた久保建英。
今シーズン、ソシエダでの成長著しく、そういった可能性は以前よりも現実的になってきたことは間違いないが、個人的にはレアルやバルサのようなビッククラブで実際にプレーするには、まだ時期尚早だと感じる。

個別の課題は十分に成長が感じられる

久保の課題として、シュート・ボール保持・守備の3つを過去記事で取り上げた。

最近の久保のプレーぶりを見ていると、十分に満足できる状態になったとは言い切れないが、3項目すべてで及第点は与えられる状態にはなったように感じる。

シュートに関しては、今季のソシエダで2トップの一角を任されることが多かったのは、久保にとって大きなプラスになった。シュートやゴールを狙う意識を明確に持つ必要があり、当然シュートの技術も向上した。
2月13日のラ・リーガ第21節エスパニョール戦でのボレーでのゴールは、その最たるものだろう。
ただし、まだ数字の面では物足りないと感じる。アタッカーである久保のポジションであれば、シーズン二桁のゴールは目指したいところ。

ボール保持に関しては、3つの課題の中で一番苦労した感がある。
特に相手の警戒が高まった2シーズン目は、久保がボールを持つとすぐに潰される場面が目についた。相手の久保対策に対して、有効な対抗手段を身に着けられないまま、3シーズン目もその傾向は続いた。
今シーズンも序盤はある程度はそういった場面が目についたが、シーズンが進むごとに減っていき、ここ最近はほとんど気にならないレベルにまでなっている。

守備に関しては、少しずつだが一定のペースで向上していってるように感じられる。
こちらは、今後も経験と時間が解決してくれるだろう。

久保建英がビッグクラブでプレーするために必要なのは、エースとしての実績

では、久保がレアル・マドリードやバルセロナのようなビッククラブでプレーするのに相応しい選手になるには何が不足しているのかといえば、それはエースとしての実績に他ならない。
漠然とそう思っていた頃に、名波浩さんが似たようなことを指摘している記事に出会った。

久保の能力を称賛も「サッカーの色気が足りない」 名波氏が認める「天才4人」との違い
1990年代後半から2000年代前半にかけてジュビロ磐田の黄金期を支え、1998年フランス・ワールドカップ(W杯)に“10番”を背負って出場した元日本代表MF名波浩氏は、これまで選手としてはもちろん、監督としても数多くの名選手のプレーを間近...

自身の名前をこの中に入れないのは謙遜かな? といったことは余談として……。
中村憲剛が入って、中田英寿を入れてないことからすると、Jクラブでの実績に重きを置いての選考かな? という感じはする。

久保はスペインに渡ってからの3シーズンでチームの中で注目の選手ではあっても、中心選手であるエースにはなれていない。エースとして、チームの勝敗を背負って試合を戦い、そしてチームを勝利に導く、そういったことはまだできていないのだ。
マジョルカ初年度は残留に導けなかったし、ヘタフェでは残留を決定するゴールは決めたが、移籍時のヘタフェの目標はもっと高いものだった。二度目のマジョルカでも、チームのエースになれたわけではない。
日本代表を見ても、久保はまだA代表ではレギュラーですらない。

しかし、今シーズンの久保はいい線をいっている。
チームのエースとしての階段を登りつつあり、いい成長過程を経ているのは間違いない。
既にチームメイトからの信頼は十分に勝ち取り、ボールは十分に集まっている。

ただし、先述した通り、ゴールの数はまだ少ないとは思う。
エースの選手であれば、チームを勝利に導くために苦しい場面、ここぞという場面でゴール決めるなり、ゴールに繋がる決定的な仕事を果たすべきだ。それがチームのエースに求められていることであり、それができるからこそエースなのだ。
中田英寿や本田圭佑といったエースの風格を備えた選手は、そういった意味では本当に勝負強く、ここぞという場面でゴールを決めてチームを勝利に導いた実績がある。

レアルやバルサのようなビッグクラブに移籍する選手を見れば、攻撃の選手であれば移籍前のクラブでエースとしての働きをしていた選手がほとんどだ。

そういったことを踏まえれば、久保がレアルやバルサでプレーするのは時期尚早。
まずはレアル・ソシエダのエースとしての実績を積んでから、その先にレアル・マドリード復帰やバルセロナ移籍があるはずだ。

今のレアル・ソシエダが、久保建英にとって最高の成長環境

上記の記事で、来シーズンもソシエダ残留を予想したが、そうした方がいい理由は、今のソシエダが久保にとって最高の成長環境があるからに他ならない。

1.ソシエダのサッカーと久保建英が相思相愛
2.ダビド・シルバの後継者として期待されている立場

ソシエダのサッカーと久保建英が相思相愛

ソシエダの目指すサッカーが、久保が持つ特徴と非常に相性がいい。
言い換えれば、イマノル・アルグアシル監督が久保を重宝しているということで、今シーズンの久保の起用を見てもそれは明らかだ。
シーズン前半にFWの手駒を欠いた状況で、久保はツートップの一角としてプレーした。
エースFWのミケル・オヤルサバルが戦列に復帰するようになっても、久保はその控えに回るわけでもなく、すぐにトップ下やインサイドハーフにポジションを移して出場し続けている。

ソシエダは2020年から久保にラブコールを送っており、今シーズンにようやく獲得が実現したが、アルグアシル監督は2018年からソシエダの指揮を取っていることを考えれば、久保は喉から手が出るほどに欲しい選手だったのだろう。
アルグアシル監督は就任以降、好成績を上げており、昨年11月に2025年6月末まで契約を延長している。来シーズン以降も同じサッカーが継続されることは間違いないだろう。

中盤ダイヤモンドの4-4-2というフォーメーションも、久保と非常に相性が良く、ツートップの一角、トップ下、左右のインサイドハーフと適正ポジションの選択肢は多い。

ダビド・シルバの後継者として期待されている立場

ダビド・シルバの後継者、これについては大きく分けて2つの意味がある。

ひとつは、シルバと同じピッチでプレーすることができていることだ。
通常、後継者と目される場合は、同じポジションを争うことになる。最初は控えの立場に置かれ、徐々にポジションを奪っていく形になり、同時にプレーする機会は少ない。
2020年にレアル・マドリードからのレンタル先の候補にソシエダが挙がった際も、当初はシルバの控えとして学ぶことになると予想されていた。

ところが、実際にはアルグアシル監督はそのようには考えておらず、シルバと久保を同じピッチに立たせてプレーさせている。
ラ・リーガ参入の際に、「日本のメッシと称される久保建英だが、より似ているのはダビド・シルバの方」とう声も一部あった通り、シルバと久保のプレーはよく似ている。同じイメージを共有しているのは間違いなく、コンビネーションは抜群だ。
シルバとともにプレーすることで、久保は自らと同じ特徴のより円熟されたプレーを学び取ることができている。このことは、何よりもかけがえのないものであり、今のソシエダでしか経験できない。

もうひとつは、純粋にシルバの後継者ということは、久保に必要なエースとしてのポジションに向かって敷かれたレールがあるということだ。

シルバの現役生活は、それほど長くはない。試合での稼働率は落ちていき、近い将来ソシエダで引退すると思われる。
エースのシルバ不在の試合で、久保に求められるものはシルバの代役であり、やがて久保がソシエダのエースを継承することは、クラブの幹部が思い描くシナリオだろう。
エースの交代がある日突然訪れのではなく、時間をかけて徐々に移譲されるという環境は久保にとって好ましいことであり、プレースタイルの似たシルバがエースを務める今のソシエダでしかあり得ない。

エースのダビド・シルバの後継者として、現在の久保建英の評価は?

前述の理由で、久保のソシエダ移籍が決まった直後から、シルバ不在の試合で久保がどれだけの働きを示せるかについて、ひとつの見所として注目していた。

シーズン前半はシルバの稼働率も高く、シルバ不在のゲームでも久保も同時に出なかったり、久保の出場時間が短いなどして、あまり期待された状況にはならなかった。
いずれにしろ、この時期はまだ久保がソシエダに適応する期間でもあり、W杯中断以降に持ち越しという感じではあった。

1月24日のトレーニング中に、シルバがふくらはぎを負傷。以降、3月3日のカディス戦で後半途中出場するまで、戦線を離脱する。
この時期には久保は十分にソシエダのサッカーに順応しており、チームメイトからの信頼も勝ち得ている。加えて、オヤルサバルが戦列に加わったことで、久保はツートップの一角からシルバと同じ中盤へとポジションを移している。
エースの代役として実力を試される条件は整っている状況だ。

月日勝敗対戦相手出場時間備考
1/25準々決勝●1-0バルセロナ~78分コパ・デル・レイ(スペイン国王杯)
1/2919△0-0A レアル・マドリードフル出場
2/520●0-1H バリャドリードフル出場MOM選出
2/1321○2-3A エスパニョールフル出場 1GMOM選出
2/1922△1-1H セルタ~83分 1AMOM選出
2/2523●1-0A バレンシア~73分2月のクラブ月間MVPに選出
3/324△0-0H カディスフル出場ダビド・シルバ 61分~
ダビド・シルバ不在期間中の試合結果

カディス戦も、シルバが負傷明けの様子見で後半途中からの出場ということもあり、対象に含めた。

この間の試合の久保のプレーぶりは決して悪くはなく、むしろ好調だった。
コパ・デル・レイ(スペイン国王杯)準々決勝は敗れたとはいえ、相手は今季好調のバルセロナ。しかもソシエダは40分にメンデスが退場で数的不利になり、その状況でも久保は決定機を演出しており、押し込むだけでよかったシュートをアレクサンダー・セルロートが決めきれなかった。
リーグ戦は、2月の3試合をマン・オブ・ザ・マッチに選出される活躍ぶりで、結果2月のクラブ月間MVPにも選出されている。

ただ、試合の結果を見ると1勝3分け3敗とチームを勝利に導くことができていない。エースとしての責任・仕事を果たしたとはいえない結果だろう。
この結果は、もちろん久保だけの責任ではない。チーム全体が不調だった。チーム得点王のセルロートがスランプに陥った感があり、シルバ不在の期間中に1ゴールしか決めていない。次点のブライム・メンデスもノーゴールだ。

久保はその中で奮闘しており、この期間中ソシエダは4ゴールしか決めていないが、久保の関与は1ゴール、1アシスト、1オウンゴール誘発だ。

しかし、チーム全体の不調はシルバ不在が原因といえなくもない。久保はそれを支えることができておらず、まだエースのシルバの代役を十分には努められていないという見方もできる。
実際、第20節バリャドリード戦では、久保は計7本のシュートを放ち、そのうちいい形でのシュートチャンスも3,4回はあったが決めきれていない。
第22節セルタ戦でも、久保は複数回チャンスがありながら仕留めきれなかった。試合終盤一人少なくなった相手にソシエダは追加点が奪えず、むしろ後半アディショナルタイムに失点して引き分け持ち込まれた。勝ち点2を取りこぼした格好だ。

現時点でダビド・シルバの後継者としての久保建英の評価は、まだ十分とは言えない。
けれど、大分いい線はいっていて、十分な成長途上にあると見える。

次のシルバ不在の期間に再び注目したいところだ。
それは、今シーズンの残りに訪れかもしれないが、来シーズンになるかもしれない。
久保にはまだソシエダでやるべきことがあり、来シーズンはソシエダ残留がベターな選択だと考える。
バルセロナ移籍なら来シーズン以降、レアル・マドリード復帰ならもう2シーズンはソシエダで過ごしてから、という気がする。もちろん、そのときにダビド・シルバの後継者としてレアル・ソシエダのエースとして実績を積んでいたら、という条件がつく。

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