アイントラハト・フランクフルトの躍進

2シーズン前のアイントラハト・フランクフルトの快進撃を見ていて、正直ワクワクしていた。
小さな街の中堅クラブが、リーグ戦では強豪相手にも引けを取らず、ヨーロッパリーグでも快進撃を続けた。
今期は勝ちきれない試合が続いて、順位表の中ほどで停滞する時期が続いたが、ここ最近リーグ戦では8試合負けなしの連勝街道を突き進んでいる。連勝を続けた結果、ついに順位表の4番手、チャンピオンズリーグ出場圏内に入って来た。2シーズン前には終盤息切れして逃してしまったが、ついに出場権を勝ち取るのではないだろうか、という機運は高まっている。
今のフランクフルトを見ていると、2シーズン前のあのワクワク感が再び蘇ってくるようだ。

今期のフランクフルトは、好調な滑り出しだった。
ドイツ杯1回戦を勝利したあと、第1節から第4節までを2勝2分けと負けなしでリーグ戦をスタートした。
ところが、第5節で王者バイエルンに0-5の大敗を喫すると、その後は勝ちきれない試合が続く。第6節から5連続引き分けたあと、黒星、引き分け、となかなか勝ち星がつかない。第4節の引き分けから、実に9試合連続で勝利から遠ざかっていた。

ところが、第13節アウグスブルク戦で久々の勝ち星をつけると、そこからリーグ戦では8戦負けなしの7勝1分け。途中にドイツ杯2回戦で黒星敗退しているが、リーグ戦は絶好調だ。

チーム構成を見ても、2シーズン前の充実ぶりと比べても、それほど引けを取らない。

ディフェンスでは、キャプテンを務めていたダビド・アブラハムが1月に引退したが、戦力的な心配はない。マルティン・ヒンターエッガーは長谷部に変わってディフェンスの統率に申し分ないし、若手のエヴァン・ヌディカもヒュッター監督の信頼を十分得るまでに成長した。
そもそも長谷部がリベロとして出ると、若手有望株のヌディカが出場できないというジレンマが生じているのが今期の状況であり、そのことがヒュッター監督の「夏で長谷部は引退」発言にもつながっている。それほどにディフェンス陣に不安はない。
 注)この時点で長谷部は去就について決めておらず、2月に入って契約延長との報道

フランクフルトの好調と長谷部の出場の関与
前回記事で、今シーズンのフランクルトの好調をお伝えしたが、長谷部誠も十分な貢献している。まずは、長谷部の今シーズンの出場状況と、チームの試合結果を見てみよう。 × 9/12 DFB 1回戦◯2-11860ミュンヘン○ 9/19 第1節△1-...

ボランチは万全とは言い難いが、第14節レバークーゼン戦で長谷部がボランチとして今期初出場してから状況は変わった。この試合は、今期主力としてセバスティアン・ローデを起用し続けているが、累積による出場停止により長谷部のボランチ起用となった経緯がある。一部メディアが「レバークーゼン戦で素晴らしいパフォーマンスを見せたにもかかわらず、長谷部はベンチに座らなければならないのだろうか?」と伝えるほどの状況に至っているのだ。
結局、次の試合以降も長谷部はボランチで先発、後半途中でローデと交代という状況が続いている。

トップ下のポジションは今期も鎌田がファーストチョイスだが、好不調の波は大きい。だが、やはりいいプレーをしたときの効果は目覚ましい。
今期途中から、3-4-1-2から3-4-2-1の1トップ2シャドーの形に変えており、これが12月半ばからの好成績の大きな要因になっている。
元々は鎌田がステップアップの移籍で出ていくことを見据えて、後任の育成も考え出したところがあり、結果的にトップ下が充実しつつあることが、フォーメーション変更の要因になっている。
そのことは鎌田にとっても、それまで1人で担っていた負担の軽減につながり、いい方向へ物事が動いている。

左サイドは、2シーズン前からコスティッチが安定の存在感を発揮し、左サイドにおける突破とゴール前へのクロスは、フランクフルトの攻撃の大きな生命線となっている。

FWは今シーズン加入したアンドレ・シウヴァが好調で、レバンドフスキに次ぐ得点ランキング2位の17ゴールを稼いでいる。
そしてなにより、あのルカ・ヨヴィッチが帰って来た。2シーズン前のフランクフルト快進撃の立役者の一人で、シーズン後レアル・マドリードへ高額移籍したが、レアルでは十分な出番がなく、冬の移籍市場で古巣にレンタル移籍。フランクフルトよりも有力なチームからのオファーも多数あった中、古巣を選択したヨヴィッチは正しい判断をしたと感じる。移籍直後の試合では途中出場ながらドッペルパック(2ゴール)、気持ちよくプレーしている姿が見られた。
現在、チームは1トップの布陣を選択しており、シウヴァと交代出場が多いヨヴィッチだが、今後は2トップに戻す場面もあるのではないだろうか。いずれにしろ、FW陣の戦力も充実していることは明白だ。

惜しむらくは、今シーズンはヨーロッパリーグ(EL)に出場していない。この戦力で再びELを戦ったらどこまで行くのだろうか? という期待は抱かせるが、今シーズンに限ればELがない方が都合がいいかもしれない。
というのも、2シーズン前は充実の戦力に絶好調で、リーグ戦もELも両方とも快進撃を続けた。しかし、フランクフルトの規模ではターンオーバーするための戦力に余裕はない。控えを出すと戦力の低下が目に付く状況で、主力がほぼ出ずっぱりでリーグ戦もELも両方に注力した。DFBポカールが1回戦で早々に敗退していたことはむしろプラスだったと言えるほどの状態。結果、リーグ戦では一時はチャンピオンズリーグ(CL)出場権も争っていたが、終盤は息切れしたのか勝てない試合が目立ち、7位で危うくEL出場権も逃すところだった(※)。ELは決勝トーナメントに入ってインテル、ベンフィカを破ったが、優勝したチェルシーに準決勝でPK戦の末に敗れた。
今期はELは出場しておらず、DFBポカールも1月に2回戦で敗退。今期の残りはリーグ戦だけに集中すればよく、毎回主力を投入しても問題はない。フランクフルトにとって悲願のCL出場権獲得に注力できる。
 ※リーグ優勝のバイエルンがDFBポカールも優勝したため、リーグ戦7位に棚ぼた的にEL2回戦出場枠が回って来た。

現地に取材に訪れている方の記事を見ると、よく出てくるのが「オラが街のクラブ」といったフレーズ。アイントラハト・フランクフルトというクラブは決して大きくはない、ブンデスリーガでは中堅を争っている。
ELはUEFAカップ時代に一度制しており、ELに名称が変わってからも出場している。CLはUEFAチャンピオンズカップの頃に出場して準優勝の経験はあるものの、現在の名称に変わってからの出場経験はない。フランクフルトにとって、チャンピオンズリーグ出場はひとつの大きな目標だ。
直近の試合までリーグ戦は8戦負けなしの7勝1分け、一時は中団以下まで沈んでいたが、この連勝で少しずつ順位を上げ、ついに4位のCL出場権内まで浮上してきた。
今シーズンの残り「オラが街のクラブ」の戦いに、サポーターは再び熱狂するに違いない。惜しむらくは新型コロナウイルスの影響で、ホームスタジアムで熱い声援を送るサポーターの姿を見ることができないことだろう。

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