アセンシオの一撃でスペインに惜敗、金メダルへの夢破れる

東京五輪サッカーは8月3日に準決勝が行われ、日本はスペインと戦って、スコアレスドローから延長後半にマルコ・アセンシオの一撃で敗れた。

準決勝、スペイン対日本の試合展開

やはりオリンピック開幕直前の試合は、テストマッチに過ぎなかったのだろう。来日直後のコンディションのスペイン、初戦を見据えて前半で主力が退いた日本、互いの長所は垣間見えたが、やはり本番での戦いは一味違う。

予想された通りに、ポゼッションをして攻めるスペインに対して、日本は守ってカウンターという試合展開。スペインの攻撃は想定済みで、日本の守備は組織的によく守れていたように思われる。
想定以上だったのは、スペイン側の守備ではないだろうか。日本はパスが思うようにつながらず、攻撃の組み立てがこれまでの試合のようにはできていない。スペインの守備の圧が中盤からあるようで、1対1で直接ボールを奪われる場面は少ないが、パスミスが目立つ。
前半はスペインが優勢に攻めて、日本は少ないながらもチャンスは作った。

52分、自陣右サイドから蹴り込んだロングボールを旗手怜央が抜け出して受け、トラップの間に前方を塞がれると、軽くマイナスに折り返す。そのボールを林大地がペナルティーアークからミドルシュートを放つが、わずかに右に外れた。枠を捉えていれば面白いシーンだったかもしれない。

56分に、左サイドのマルク・ククレジャが入れたクロスをミケル・メリノが受けて、エリア内でシュート体制に入ったところを吉田麻也がブロック。PKが宣告され、吉田にはイエローカードが提示された。日本にとって絶体絶命の窮地の場面。

オンフィールド・レビューを見ると、吉田はメリノの足には一切触れずに先にボールに触れており、メリノが吉田の足を蹴っていることがはっきりと分かる。吉田のファールではなく、メリノのファールということで、PKは取り消し、イエローカードも抹消。
吉田が笑顔で主審とグータッチをかわすナイスなシーンのおまけ付き。

このプレーは、こちらの記事で紹介したクリスチアーノ・ロナウドに対するシュートストップの場面を彷彿とさせた。ぜひ見比べてみて欲しい。

どちらも、正確にボールに対してタックルに行っており、シュートしている相手の足にはまったく触れていない。
ディフェンダーとしては完璧なシュートストップの技術で、これはもう長年プレミアリーグでプレーし、守備の国イタリアでも評価されている吉田の経験値の賜物に違いない。おそらく今の吉田にとっては、いつでもできるような類のプレーなのだろう。日本代表キャプテンの看板は伊達ではなく、この男の技術と経験はさすがとしか言いようがない。

こぼれたボールをラファ・ミルが拾っており、笛が吹かれずに続行されていればゴールの可能性があったレフリングミスとスペイン側では一部報道されているが、これは身内びいきな見解に過ぎない。吉田のイエローが取り消されたあとに、主審ははっきりと日本側のフリーキックを示しており、メリノが吉田を蹴ったスペイン側のファールなので、その時点でプレーは途切れている。

65分に上田綺世と相馬勇紀が、林と旗手の交代で出場。林は特に前線で攻撃に守備に走り回っており、このあたりの時間での交代は妥当か。相馬は縦への抜け出しで、旗手とはまた違った攻撃の形が期待される。
交代直後はスペインに押し込まれたが、しばらくすると日本が立て続けに攻勢をかける。入った相馬をうまく使う場面がいくつかあった。

78分、久保が左サイドからペナルティーエリア内に進出すると、そのまま左足でシュートを放ったがキーパーに防がれた。角度があまりない位置からだったが、久保建英が自力で決めるとすればこの場面だったか。

84分、スペインはペドリを下げて、マルコ・アセンシオを投入。
この試合でもペドリは脅威の存在だったため、ペドリが退いたことには安心できるが、代わって入ったアセンシオも別の意味で厄介な存在であることには変わりない。
終盤はスペインが攻勢をかけるが、ゴールは許さず、スコアレスのまま90分の戦いが終了。

延長開始から久保と堂安律が交代で退いたことは色々言われてもいるが、これは単純に疲労を考えてのもので、妥当ではないかと思う。代わって三好康児と前田大然が入る。

102分に、中山雄太が左サイドからクロスを放り込む。前田がゴール前に走り込むも相手ディフェンダー二人がついており、競った状態から頭で合わせるが、枠を捉えられない。

112分、三好が左コーナー付近での競り合いから、ニアサイドにパスを通す。マーカーと競り合いに勝った遠藤航がゴール前にクロスを入れるが、これは簡単にスペインに弾き返される。サイドの選手に渡すつもりだったボールは、エリア内に走り込んできた三好の元へ。三好はそのままシュートを放つが、これは防がれてしまった。

そして、115分に運命のときが訪れる。
右サイドからのスローインをミケル・オヤルサバルが受けて、軽く縦に抜ける動きをすると、付近のペナルティエリア内に居るマルコ・アセンシオにパスを通した。アセンシオは軽くターンをすると、振り向きざまに左足でシュートを放つ。巻いたシュートは谷の伸ばした手の先を通過すると、サイドネットを揺らした。
試合を決めるゴールを決めたことで、ユニフォームを脱いで喜びを爆発させるアセンシオ。本人にとっても会心のゴールだったに違いない。どうやらこの後に、アセンシオは上半身裸のままお辞儀もしていたようだ。

この場面は、初見ではエリア内でポッカリと空いたスペースにパスが通されたことで、なぜアセンシオをフリーにしてしまったのか、と疑問に思った。しかし、リプレイを見るとそうではなく、アセンシオが、スペインが、巧妙にその状況を作り出していることがよく分かった。
スローインを受けたオヤルサバルは、軽く縦に抜け出してクロスを上げる素振りを見せるが、それはフェイクにすぎない。オヤルサバルをマークしていた田中碧が追従した他に、その内にいた中山がクロスを防ぐために、あるいは完全に縦に抜けられるのを防ぐためにチェックに入る。その瞬間、オヤルサバルは真の狙いであるエリア内のアセンシオに対して短いパスを通した。
アセンシオを見ていたのは中山だったが、オヤルサバルをフォローしに行ったために、瞬間的にマークが外れている。アセンシオはパスが来るのを見越して、わずかに下がりながら小さく空いたスペースに陣取っていた。
さらに内に居た板倉滉がシュートを防ぎに行くが、アセンシオは得意の形でのシュートを振り切ってゴールを決めた。スペインとしては、アセンシオの特徴は分かった上での攻撃の形だったに違いない。
余談になるが、久保にお手本にして欲しいような右サイドからの見事なシュートだ。

この時間でのゴールにうなだれる日本のイレブン、118分には橋岡大樹を投入して、吉田を前線に上げるパワープレーにも出たが、そのままタイムアップを迎えて1-0で敗戦した。

勝敗を分けた理由を一言で表すのは難しいが、そのひとつに挙げられるのは、日本は「まだ勝ち方を知らない」というのがあるかもしれない。日本は世界の強豪を相手にして、互角の勝負ができるところまでは実力をつけてきたと思う。ところが、その互角になった試合展開から勝つための手段や気持ちが足りなくて、世界の強豪はその手段も気持ちも持っている。スペインは、少なくともアセンシオはあの時間帯に引き分けからのPKではなく、勝負を決めるつもりでいたし、その技も持っていて、パスを入れたオヤルサバルもそのつもりでいたと言うことだ。
ロシアW杯の「ロストフの14秒」もそうだ。後半アディショナルタイムのラストプレーと思われるコーナーキックをゴール前に上げて、キーパーにキャッチされてカウターからの失点をして負けた。ベルギーの選手は残り時間から可能な逆転弾の展開をイメージしており、日本はそうではなかったということ。日本にそれがあれば、ショートコーナーから少し時間を使ってミドルシュートで攻撃を終えるなど、カウンターの可能性を排除することはできたはずだ。
そう、日本は「まだ勝ち方を知らない」、その経験値が強豪国に対してまだまだ劣っている。

それにしても、この試合ではオーバーエイジ枠の選手のひと仕事が際立った。日本は吉田がスペインの決定機をノーファールで止めて、1点を防いでいる。スペインはアセンシオが決定的なゴールを決めている。
両チームともに、ベストと言えるようなメンバーを招集してきているが、開催国ではないスペインがこれだけのメンバーを揃えられたことには理由がある。W杯やユーロとは異なり、クラブに派遣を強制できない五輪だが、スペインの場合は国内チーム所属に限るが、五輪でも派遣を要請されれば断れないルールがあるそうだ。そのため、24歳以下でもユーロメンバーから6人も参加しており、この中にバルセロナのペドリやエリック・ガルシアも含まれる。オーバーエイジ枠でも、レアル・マドリードでレギュラーのアセンシオが選出されているのは、そういうことなのだ。

試合後、ベンチ前で座り込んだまま動かない久保のもとには、ヘタフェのククレジャとビジャレアルのパウ・トーレス、そしてレアルのアセンシオも訪れた。それぞれ昨シーズンのレンタル先の同僚と、所属元の同僚であり、スペインチームの中でも久保とのつながりが特に深いメンバーたちの気遣いだった。

準決勝、ブラジル対メキシコ

ブラジル対メキシコの試合も、緊迫した一戦だった。
攻撃陣の強力なブラジルがメキシコを押し込む展開。特に前半の大半の時間はブラジルが攻めて、守ったメキシコが反撃に転じるが、中盤で奪い返したブラジルがまた押し込むという展開が繰り返された印象だ。ブラジルは中盤の圧が強く、それによってメキシコのパスが乱れてボールを奪い返される場面が多く見られた。
メキシコもただ守るだけではなく、少ないチャンスを活かしながら反撃を続け、時間の経過とともに徐々に攻め込む時間も長くなっていく。

優勢に試合をすすめるブラジルだが、メキシコの堅守に阻まれてゴールは奪えず、メキシコも決定機はあったがゴールには至らない。スコアレスのまま延長に突入するが、そのままタイムアップを迎えた。

試合中に好セーブを連発していたメキシコのGKギジェルモ・オチョアだが、PK戦ではシュートコースの読みは全部当てているのだが、セーブできない。
メキシコは1人目がブラジルのGKサントスにセーブされてしまうと、2人目もプレッシャーを感じたのか外してしまう。3人目は決めたものの、4人全員が決めたブラジルにPK戦4-1で敗れた。

どっちが勝ってもおかしくはない、どっちが決勝に進んでも相応しい、そんな試合だった。
PK戦のわずかなツキがブラジルに傾いた、そんな結果だと思う。

準々決勝の4試合と準決勝の2試合を見ると、ほとんどが接戦で、結局のところ決勝トーナメントに進出したチームはどれも強く、実力は大分均衡していたように思われる。韓国だけが、そうではなかったように見えるが。

3位決定戦の展望

正直なところ、準決勝に負けたことで、金メダルに挑戦できなくなったことも残念だが、それ以上に残念だったのはブラジルとやれなくなったことだ。このチームでブラジルと試合をして、ガチンコの戦いをしたらどうなるのだろうか、というのが見たかったのが本音だ。
U-24とはいえ、日本はベストと言えるようなチームを編成しているし、一方のブラジルはベストメンバーではないハンデはあるが、それでも十分に攻撃陣は強力で強い。これで試合をすればいい試合をするのは間違いないだろうし、その結果がどうなるかに興味があった。
日本の試合前には、決勝ならブラジル、3位決定戦ならメキシコというのが分かっていただけに、スペインに勝つしかない、そんな気持ちで見ていた。

さて、結果スペインに敗れた日本は3位決定戦に回り、グループリーグ2戦目で戦ったメキシコと銅メダルを争う。

グループリーグで2-1で勝った日本だが、メキシコを侮ってはいけない。あれは、出会い頭の一発的に2点を先制したことで勝つことはできたが、それがなかったらどうなっていたかは分からない。
特にブラジル戦を見て、改めてそう思わされた。メキシコはブラジル相手に攻め込まれ、守備に追われてはいるが、決して守勢に終始したわけではない。したたかに反撃の機会をうかがっては、ブラジル陣内に攻め込んでいく。
これをグループリーグの日本戦に重ね合わせるとどうだろうか。互いに初戦に勝利を収めて挑んだ2戦目、メキシコは日本を強敵と見ていたなら、やはり堅守を中心にしながら反撃するプランでいたかもしれない。とすれば、序盤の2失点がなければ、スコアレスの状態から後半に1点取って、メキシコが競り勝っていたかもしれない。
一方の日本は、出会い頭の一発的に2点を上げたが、その後前に出てきたメキシコに対して追加点が決められなかった。メキシコの守備は、やはり侮れない。

とはいえ、両チームともに連戦の疲れは蓄積しているはずで、中2日の試合ペースで5試合を戦っており、うち日本は2試合、メキシコは1試合を120分まで戦っている。3位決定戦は文字通りの総力戦になるが、どちらかが大きく崩れる可能性も否定できない。

見どころのひとつはゴールキーパーだ。
メキシコのオチュアは非常にいいセーブを見せている。一方の日本も、谷晃生が決勝トーナメントに入って2試合ともに素晴らしいプレーでゴールを守っている。守護神の出来が、ひとつ勝負の分かれ目になりそうな気がする。
そして、その堅守を誇るキーパーを、両チームの攻撃陣がどのようにして打ち破るのかにも注目したい。

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