香川真司に求められているのはゴールに近い位置でのプレー

香川のキャリアの中で、ブンデスリーガを連覇した第1期ドルトムント時代からマンチェスター・ユナイテッド初期の頃が全盛期だっただろう。このあたりの時期は心理的にもイケイケの状態で、技術的にもキレキレの状態だった。
マンチェスター・ユナイテッドで出場機会を失ううちに、自信も含めて心理的に何かを失い、ドルトムントに復帰した直後はチーム状態が不調なことも合わせて上手くいかなかったが、トゥヘル監督時代(2014-2015,2015-2016)には全盛期を彷彿とさせるようなプレーを見せた。

その後、自身のケガや監督の交代を経るうちに調子を落とし、出場機会を徐々に失っていった。
トルコのベシクタシュ へ レンタル、スペイン2部サラゴサ、ギリシャPAOKテッサロニキと移籍して現在に至るが、この頃になってくると明らかに全盛期とはプレーに違いが見られる。

元々香川はドリブルがひとつの武器だったが、積極的にドリブルを仕掛ける場面はめっきり減った。年齢と共にドリブルで勝負できなくなってくるのは、ドリブラーとしては宿命なのでそれは致し方ない。キャリアの晩年に差し掛かっても、全盛期と変わらずにドリブルで仕掛けられているメッシだけが特別と言える。

ただ、問題なのはドリブルで勝負できなくなったことではなく、プレーする位置にあると感じる。
全盛期の香川のゴール集なんて動画を見るだけでもよく分かるが、味方全体が相手ゴール方向に押し寄せている状態で、香川はゴールの目の前に近い位置からフィニッシュしているものが大半だ。
つまり、香川はトップ下というポジションでも高い位置、よりゴールに近いところでプレーしているということだ。当時の香川は、現在の日本代表で南野がトップ下でプレーしているときの位置取りに近かったと言えば分かりやすいだろうか。
トップ下のポジションとして広範囲を動き回っていた印象はあるが、フィニッシュの場面ではゴールの目の前まで詰めていることが多かった。

その後、トゥヘル監督の時代はプレー位置が下がったが、それは指揮官が4-1-4-1や4-3-3、3-4-2-1といったトップ下のポジションがないフォーメーションを多く採用したからだ。香川は主にインサイドハーフとしてプレーしたため、プレー位置が多少下がるのは自然なことだと言えた。
ゴールから遠ざかることで得点数は減ったが、プレーの質は高く、「ドルトムントの小さな魔術師」と称されたのはこの時期だ。

ところが、トゥヘルが去った2017-2018シーズンは再びトップ下のポジションを務めるが、このころからプレー位置は既に低くなっていた。出場機会を失っていったのは、そのことと関係があるように感じる。
ドルトムントで出番を失い、ベシクタシュに移籍したときには明らかにプレー位置は下がっていたし、以後サラゴサから現在のPAOKに至るまでずっと変わらない傾向だ。

得点を奪うことよりも、ゲームメイクの意識が高くなったのかもしれないが、はっきり言って香川に求められているのはそういうことではない。ゲームメーカーであれば他に優れた選手はいくらでもいるし、ゲームメーカーであればパサーとしての能力が求められるが、香川の中長距離のパス能力はそれほど優秀ではない。
優れているのは短距離のパスだ。後方から前線に長めのパスが入った際に、相手マーカーのチェックが当然入る。これを周囲の状況により、味方に有利で相手に不利な選択肢のところへワンタッチでパスを捌く、これが香川は抜群に上手い。要するに後方から攻撃のための縦パスが入る際に、香川がそのボールの受け手、前線での攻撃の起点になっている。これが香川の強みだ。
本田圭佑や中田英寿のようなボールをキープして、敵陣の隙にパスを通すような通常のゲームメーカーとは明らかに特色は異なる。

ドルトムントでは、そのことは非常に理解されていたし、香川を中心に攻撃を組み立てている状況があった。ドルトムントで好調時代の映像を見ると、ボールが入る際に香川の周りには常に3,4の選択肢があり、多い時にはそれは5つくらいある。ドルトムントの攻撃戦術が、そういうことを心がけているからだ。
マンチェスター・ユナイテッドではその特色があまり理解されておらず、チームの方向性もファーガソン監督の当初の思惑とは異なり、ボールを放り込むサッカーへと回帰していった。
つまり、香川がその能力を十分に発揮するにはチームの戦術や周囲の理解が必要で、独力でも相手を攻略することを得意とする選手ではない。ドルトムント、特にクロップ監督の戦術とは相性が抜群で、香川とクロップ監督が相思相愛とも言えるような関係なのも頷ける。

現在のプレーを見ていると、サッカー後進国だった頃の日本のフォワードでよく目にした「ボールが来ないなら中盤に落ちて、ゲームメイクに参加する」というような感じになっている。つまり、本来のトップ下のポジションよりも低い位置に落ちて、ゲームメイクをしようとしている。それは前線でのパスの受け手ではなく、中盤からのパスの出し手の方になりたがっているということで、先述した通りそれは香川に求められていることではないのだ。

また、プレー位置が下がるということは、それだけゴールから遠のくということで、ゴールを決める機会も減るということだ。
ブンデスリーガを連覇した頃に得点を量産していた頃は、ゴール前まで詰めてフィニッシュしていた。ペナルティライン付近からのミドルシュートももちろんあったが、どちらかというと強いシュートよりはループシュートが多かった。
現在のプレー位置からするとミドルシュートが必要な状況だが、今でもループ以外の有力なミドルシュートがない。このあたりが、全盛期以降に香川のゴールがグッと減ってしまった要因だ。
シュートの面から言っても、低い位置ではなく、より高い位置でプレーしなければならない。個人的には、南野が日本代表でトップ下を務めているときのプレーを参考にしてほしいと思っている。そういったプレーが香川に求められているプレーだ。

もうひとつ気になっているのはスタミナ面で、フルタイムで出場している機会はほとんどなくなった。
スタメンで出たとしても後半途中で交代ということがほとんどで、それは出場間隔が空いていたとしても変わらない。連戦の疲労を考慮しての早めの交代というわけではないのだ。
このあたりの改善は今後も見られないのだろうか。

現在のPAOKでのプレーを見ていると、Jリーグ創成期にジーコが鹿島アントラーズで披露していたプレーとダブって見えてしまう。当時のジーコは既に一度は現役引退したあとで、体力的には衰えていたが、テクニックはさび付いておらず、サッカー後進国だった日本の舞台で数々の技を披露した。
今の香川も、明らかにリーグのレベルからしたら格上だ。テクニカルな技を披露してファンを喜ばせたりしてはいるが、エリア内でフリーの状態で居ても、いいタイミングでパスは来ないなど、自身のレベルとチームのレベルの整合性はとれていない。これをするのであれば、Jリーグでプレーした方が、よほど日本サッカーのためになっていいのではないかと思ってしまうくらいだ。

近年でもオファー自体は多く入っているようだが、香川自身が選択しているチームを見ていると、優勝を狙えるチームというのを最低条件にしているのではないだろうか。そうすると5大リーグからのオファーはないだろうから、それ以外でプレーすることになっているのだろう。
それよりは、中堅チームや例え残留争いするようなチームでも5大リーグでプレーをして、優勝ではないかもしれないけどチームの目標に対して貢献したらどうだろうか。実績のあるドイツ、あるいはイタリアやフランスあたりなら中堅チームの一員として、まだまだやっていけそうには思うのだが。

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