ヘタフェに移籍した久保建英の現状

今シーズンのひとつの目玉として、久保建英と南野拓実がそれぞれリーグのトップチームでどれだけやれるのか? というのに注目していた。
2人とも前半戦はスタメンレギュラーを勝ち取る状況にはならないだろうし、そうならなくて問題ないと思っていた。なぜなら、両チームともにチャンピオンズリーグ(CL)があり、国内カップ戦があるからだ。それに加えて、今シーズンも新型コロナ影響からリーグの開幕は遅れ、例年以上に過密日程となっており、必然的にターンオーバーから控えの立場でも出番は多いことが想定された。
控えの高い番手から活躍をアピールし、シーズン後半にレギュラーを勝ち取れるかどうかという展開を見守るつもりだった。
ところが、2人とも1月の移籍市場でチームを移籍という結果になった。

南野はチーム事情によるものが大きく、本来想定された出番が訪れない状況を見れば、サウサンプトンへの移籍は正解だったと思える。サウサンプトンのスタイルは南野によく合っており、生き生きとしたプレーを見せている。

一方の久保はというと、たしかにビジャレアルに居てもその先の出場機会は増えそうにはなかった。
ただ1月に入って移籍先の候補としてヘタフェの名前が挙がり、それ以外のチームの名前が挙がってこないことに疑問を感じた。
それは、「ヘタフェのスタイルは久保には合わない、久保とうまく融合できるのだろうか?」というものであり、それは以前にヘタフェに所属した柴崎を振り返ってみるとよく分かる。
前回記事にて、柴崎が所属した頃のヘタフェについて述べた。

その当時から指揮官はホセ・ボルダラス監督のまま変わっておらず、久保は体格的には柴崎とさほど変わらない。
身長は柴崎の175cmに対して久保が172cm、プレイの特徴としては久保の方がより攻撃に特化していて、ポジションはトップ下か右サイドのアタッカーというのが現状。

そのあたりを踏まえると、久保はヘタフェ本来の4-4-2フォーメンションなら右サイドハーフで、体格や守備の強度を考えればセントラルMFとして用いることはないだろう。
つまり、久保にも守備中心の役割を求めるというのであれば、それはほぼ確実に柴崎と同じような状況にしかならないはずだ。

では、なぜヘタフェが久保のような選手を求めるのかといえば、今期の成績が振るわないからに他ならない。

順位得点失点
2017-20188位42(13位)33(3位)
2018-20195位48(9位)35(3位)
2019-20208位43(12位)37(4位)
2020-202114位20(最下位タイ)30(9位)25試合消化時点
ヘタフェの成績 ※カッコ内はリーグ順位

前回記事で紹介したデータに、25試合と全体の3分の2ほど消化した今期の暫定成績を追加。特に得点不足は顕著で、今期はこのままのペースだと30点ほどで終える計算になる。
(年明けの移籍前の段階でも14位、勝ち点17で降格圏まで2ポイント差、12得点は下から2番目という状態)

そのあたりを踏まえながら、今期のフェタフェの試合も見てみると、昨シーズンのマジョルカと似てる面もある。
昨シーズンのマジョルカは、フォーメーションは4-4-2、時に5バックなども用いたものの、いずれにしろトップ下のポジションはなし。指揮官のビンセンテ・モレノ監督は久保はセントラルMFとしては用いず、右サイドハーフが主なポジションで、時には左サイドでも起用した。
降格圏脱出を争う状況もあり、戦術的には守備的でべた引きが多く、少ない人数で攻撃を仕掛ける展開が中心。そこで久保のドリブル突破をはじめとしたオフェンス力が期待される状況だった。

多少状況は違えど、今の久保がヘタフェに加入すれば、似たような状況に置かれるはず。
ヘタフェとしては、昨シーズン特に後半のマジョルカ攻撃を牽引した久保に同様の活躍を求めているのかもしれない。
実は、今シーズンのヘタフェには、クチョ・エルナンデスが所属している。昨シーズン後半のマジョルカで、久保と息の合ったコンビプレイが随所に見られていたので、そのあたりもヘタフェとしては計算に入れているのかもしれない。

他に久保を欲しがる可能性としては、ボルダラス監督が方針転換をして、トップ下を配置して今よりもオフェンシブなシステムに変更するということになる。
要するに守備偏重のシステム・戦術から、ノーマルなものに変更するという可能性は十分にあり得るが、果たしてここまで3年もの長期間に渡って展開し、十分すぎるほどに成果を上げてきた守備戦術を簡単に捨て去れるものだろうか、という疑問は残る。

とすれば、どちらかといえばスタートはこれまで通りの守備戦術で、同点あるいは負けてる展開で後半途中から攻撃的戦術に切り替える際の投入というのが妥当ではないだろうか。
もちろん久保のスタメン起用の可能性も否定できないが、それは指揮官が守備戦術を捨てて方針転換をはかるという大胆な切替が前提になる。

と、ここまでが1月の移籍直前に書いていた記事内容を多少修正したものだ。
単純にサイト開設が間に合わずに、ストックになっていた。

結果的にヘタフェは久保を獲得し、バルサからカルレス・アレニャもレンタルで獲得した。
アレニャは久保と同じくバルサの下部組織出身で、ポジション的にはトップ下やインサイドハーフが主戦場で、サイドやボランチもこなせる感じだ。

結果対戦相手久保アレニャ備考
第18節◯3-1エルチェin後半19分フル出場
第19節◯1-0ウエスカout後半35分out後半42分
第20節●1-5ビルバオout後半24分フル出場
第21節△1-1アラベスout後半34分out後半34分
第22節●0-3セビージャout後半14分 ※out後半43分※味方選手退場による
第1節●0-2レアル・マドリードin後半9分in後半9分順延分
第23節●0-1レアル・ソシエダin後半13分in後半13分
第24節●0-1レアル・べティスin後半36分in後半22分
第25節◯3-0バレンシアin後半40分in後半40分
第26節●1-2バリャドリッドin後半開始out後半43分
ヘタフェの対戦結果と久保・アレニャの出場状況

久保は移籍直後の第18節エルチェ戦にぶっつけ本番のスクランブル的に後半途中から出場し、いきなり2得点に関与、試合も3-1で勝利した。続く第19節ウエスカ戦で初スタメンで1-0の勝利に貢献と、移籍後2戦で順調な滑り出しを見せた。

予想に反して、ボルダラス監督は久保の移籍直後から、4-2-3-1の布陣で攻撃にも比重を置いたシステムに転換をはかって、いきなり成果も収めた。
久保が入るときは右サイドハーフのポジションで、アレニャがトップ下に入り、攻撃時に4-2-3-1の布陣から守備時は4-4-2の形がというのは、どこか日本代表に通じるものがある。
右サイドに位置しながらも、指揮官は久保に中央寄りでのプレーを求めていて、中央のアレニャとの連携を強めて敵陣を攻略することを想定しているようだ。

移籍後3戦目のアスレティック・ビルバオ戦でも同様の形でスタメン出場を果たし、開始早々の先制点へ関与した。その後はアスレティック・ビルバオが5点を奪う猛攻で敗戦。

ここまでは、久保とアレニャの起用の効果は明確に出ていたと言える。
この2人はセットで起用されている意味合いが強く、求められているのは攻撃の改善、明確な結果として得点力の向上があるはずだ。
移籍直後の3試合で成果につながっているものの、以後の2試合では無得点と結果が出ない。
得点につながらないのであれば、守備力の高い選手を起用して、より失点を防いだ方が賢明となるのは当然の流れかもしれない。つまり、ヘタフェ本来の守備戦術への回帰ということだ。

第1節順延分のレアル・マドリード戦で、ついに久保はアレニャと共にスタメン落ちをした。相手が強豪レアルということもあり、ボルダラス監督は守備的な戦術としてのスタートを選択したのかもしれない。
0-0で前半を折り返すと、後半9分から久保、アレニャ、FWマタを投入し、攻撃的にシフトするも2失点をして0-2で敗戦。

第23節レアル・ソシエダ戦、第24節べティス戦でも、久保はアレニャと共にスタメン落ちをした。そして1点を追う展開で、後半途中から2人は出場しているが、両試合ともにゴールは生まれず0-1のまま敗戦。

続く第25節バレンシア戦は、久保とアレニャはともに試合の決着がついた2-0から終了間際の投入だった。アレニャが追加点をあげて、ヘタフェは3-0と久々の勝利を勝ち取った。

直近の第26節バリャドリッド戦では、左サイドハーフのククレジャが出場停止ということもあり、アレニャを先発起用、久保も後半開始から途中出場となった。しかし、前半のうちに1-2となっていたスコアは動かず、そのまま敗戦となった。

直近の現状を見れば、ヘタフェでの現状は移籍前に危惧した通りの状況にある。これだったら、移籍せずにビジャレアルに留まっていたのと大差はないかもしれない。

しかし、久保が完全に信頼を失ったかと言えばそうでもなく、ボルダラス監督は信頼を口にする。
ただ、先述の通りに今期のヘタフェは得点力不足が深刻であり、久保とアレニャの二人はその改善のために採ったことは明らかで、得点という明確な結果が求められている。
それが出せれば、守備戦術から攻撃も考慮したシステムへの比重を増していくに違いない。
久保としては、3分の1ほどになった残りのシーズンで結果を出し、チームの状況自体を変えていくしかないだろう。

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