柴崎岳も所属したヘタフェの独特なスタイル

久保建英が現在所属するヘタフェには、かつて柴崎岳も在籍していた。
その柴崎がヘタフェで過ごした期間を振り返ってみると、ヘタフェというチームの特色が見えてくる。

柴崎岳が所属したヘタフェ

柴崎は2016年のクラブワールドカップ決勝で、レアル・マドリードを相手に2得点をあげる活躍もあり、年明けの移籍市場でスペイン2部テネリフェに移籍。テネリフェはリーグ4位でプレーオフに進出するも、1部昇格目前の決勝で敗退、その対戦相手がヘタフェだった。

テネリフェが1部に昇格できなかったことで、柴崎は1部のクラブへの移籍を模索し、結果的にヘタフェへの移籍が決定。背番号10を与えられたことから、柴崎に対する期待の大きさがうかがえる。

開幕戦からトップ下のポジションでプレーした柴崎は好調を維持し、第4節バルセロナ戦で初ゴール奪う。このゴールはゴラッソとして、かなり話題になった。

しかし、この試合で負傷した柴崎は3ヶ月ほどの離脱。
第15節のエイバル戦で復帰。以後のシーズン後半は出場機会は得られるもののベンチスタートが多く、開幕時のようなスタメン1番手という立場からは後退した。
ヘタフェは昇格1年目の2017-2018シーズンを8位という好成績を収め、柴崎は22試合1得点という成績で終了。

その後、ロシア・ワールドカップでベスト16入りをした日本代表で、柴崎はゲームメーカーとして活躍。前大会で遠藤が代表を退いた後、日本の舵取り役を誰が担うのか? という問題に対して、柴崎岳という明確な答えが出た大会となった。

ヘタフェで思うような出場機会が得られていないこともあり、夏の移籍市場では移籍話が飛び交うも、結局は残留。
2018-2019シーズンは、前シーズンよりも出場機会を減らして、リーグ戦7試合の出場にとどまり、後半戦は招集メンバーから外れることもしばしば。
一方で、チームはリーグ5位でヨーロッパリーグ(EL)出場権獲得という、抜群の成績をあげた。

クラブとは対照的に、日本代表ではボランチのポジションで絶対的なゲームメーカーとして存在感を発揮し、吉田麻也不在時にはゲームキャプテンを務めるなど、チームでの立場は不動のもの。
ヘタフェで出場機会が得られていなくても代表の主軸として招集され、1月のアジアカップ、6月のコパ・アメリカ(南米選手権)でも活躍した。

しかし、ヘタフェでの立場に変化がみられる兆しはなく、シーズン終了後にヘタフェを去り、2部デポルティボへ移籍となった。

ヘタフェの独特なスタイル

柴崎がヘタフェで思うようにポジションをつかめなかった理由は、ヘタフェというチームというより監督のホセ・ボルダラスが目指すスタイルが、柴崎というプレイヤーに合うスタイルではないということだ。

ヘタフェのプレースタイルは守備的で、主に4-4-2のフォーメーションを採用している。
というと、シメオネ監督率いるアトレティコ・マドリードを思い浮かべる方も多いのではないだろうか。

ヘタフェアトレティコ・マドリード
順位・得点・失点順位・得点・失点
2017-20188位・42(13位)・33(3位)2位・58(7位)・22(1位)
2018-20195位・48(9位)・35(3位)2位・55(5位)・29(1位)
2019-20208位・43(12位)・37(4位)3位・51(7位)・27(2位)
ヘタフェとアトレティコ・マドリードの比較 ※カッコ内はリーグ順位

これがフェタフェが1部に再昇格してから昨シーズンまでの成績。両チームとも守備を重視しているのは一目瞭然。

アトレティコは国内では3強の一角を形成。チャンピオンズリーグ(CL)優勝こそないものの決勝トーナメント進出の常連、ELは優勝3回と、欧州の舞台で堂々たる戦いぶりを見せる強豪だ。

ヘタフェのスタイルは、守備の強度重視でボールを奪ってからのカウンター、当然ポゼッションは低くリーグ内でも最低クラス、パス数やパス成功率も同様。
実は、このヘタフェの戦術は、あまり評判がよくない。単なる守備的な戦術ではなく「相手にプレイをさせないことを心がけている」というような域にある。いわゆる「止められないのであれば、ファールしてでも止める」という感じで、データでもチームのファール数やカードの枚数はリーグ最多クラス。プレイの中断も多く、サッカーとしてのだいご味があまり感じにくい試合展開になりがち。アンチフットボールとも言われがちなスタイルだ。
このあたりが、アトレティコとは異なる点で、特にこういったところが強者が集う大会であるELでは、すこぶる評判がよくなかった。

マンガやアニメの世界だと、対戦相手には最低一人は華やかなキャラクターがチームの中心にいて、そのキャラの色がチームのスタイルになっているような設定になっていることがほとんどだ。
ところが、まれにそのようなキャラクターが一人もいないチームが対戦相手として現れる。大会のダークホース的な、無名ながら地味で泥臭い戦術、場合によっては相手のエースを潰すようなプレイで勝ち上がって来るような戦いぶり。このような相手チームのスタイルに主人公のチームは苦しめられる……。
物語としてはメリハリとして欲しいだろう、チームスポーツの大会中の対戦相手として、1チームは出て来そうな感じで、ヘタフェのスタイルはまさにそんな印象だ。

ただ興味深いのは、それがボルダラス監督が目指しているサッカーなのかというと、そうではないという点だ。本人は元はフォワードの選手であり、その選手時代から現在に至るまでヨハン・クライフに憧れるクライフ信者だという。
つまり、本人が理想として掲げているのはクライフのトータルフットボールであり、現在の守備的戦術は現実的な妥協策ということだ。
2部や1部昇格直後のスタイルが、本人の目指す理想には近かったのだろう。

ヘタフェはなぜ柴崎岳を獲得したのか?

そのあたりを踏まえて、柴崎との関連をもう一度振り返ってみる。
なぜ柴崎を獲得したのかというと、当然ながらゲームメーカーとしての能力を非常に評価していたということ。
柴崎は2部テネリフェへ移籍した後、慣れない環境への適応に苦しむも、徐々にチームの戦力として期待通りの活躍をしていく。1部昇格をかけたプレーオフ決勝では、ヘタフェを相手に1stレグ・2ndレグともにアシストを記録。
結果的にはテネリフェは敗れて昇格を逃し、昇格を勝ち取ったヘタフェに柴崎は移籍をして、スペイン1部の舞台へ立つこととなった。

ヘタフェは1部昇格直後の2017-2018シーズン開幕時点では、普通に攻守のバランスのとれた戦術を目指しており、柴崎はトップ下のポジションでゲームメイクを担うことが求められていた。

開幕戦から柴崎は好調を維持し、第4節バルセロナ戦で初ゴールを奪うも負傷。
ケガ影響で復帰まで3か月を要するが、この離脱期間が柴崎のその後の運命を決定づけることになる。

離脱の間に他の選手にポジションを奪われたのではなく、柴崎のポジション自体がなくなったのだ。
元々ヘタフェは4-2-3-1のフォーメーションを中心に採用しており、ボルダラス監督初年度にあたる2部での2016-2017シーズンからそれは変わらない。1部昇格に当たり、このトップ下のポジションの強化として柴崎を獲得。
しかし、柴崎というゲームメーカーを失った影響もあり、シーズン途中から4-4-2フォーメーションで守備重視のカウンター戦術へと移行した。

負傷から復帰した柴崎が問題になったのは、守備力というよりはフィジカル能力といえる。
もともとボランチを得意とする選手であり、日本代表ではボランチとしてチームの中心的役割をこなしているので、守備力が低いということない。しかし、監督が求める守備の強度としては十分ではない、ということなのだろう。
たしかに、ヘタフェで4-4-2の中盤センターで起用されても、チーム戦術的に期待される結果は出せていない。

ただ、指揮官は、この時期でも柴崎のオフェンス力は買っていたようだ。サイドハーフや2トップの一角としても出番を与え、柴崎の活用法を模索している。フィジカル的な守備負担の少ないところに配置して、攻撃時に能力を生かしてほしいということなのだろう。
しかし、サイドハーフや2トップの一角が柴崎が得意なポジションかといえば、そうではない。持ち味を生かすにはやはりボランチが最適で、そうでなければトップ下ということ。
ボルダラス監督としては、柴崎をトップ下の選手としては評価していたが、ボランチあるいはセントラルMF(中盤中央)の選手としては見ていなかったとになる。皮肉なことに10番という背番号に、そういった意味もあったかもしれない。

翌2018-2019シーズンは、一層この傾向が強くなる。
1部を戦ううえで、ヘタフェの戦術は守備戦術と明確に定めたのだろうし、夏の移籍市場でも、当然それに見合った選手を補強している。
先述の通り、柴崎の移籍話は飛び交ったが、結果的に残留。しかし、前シーズン後半のような状況は変わらず、むしろ各ポジションに戦術に見合った選手が補強されたことで、ますます柴崎が入り込む余地はなくなった。出番はさらに減り、翌シーズンは2部デポルティボに移籍。
移籍先に決める際に重視したことは「ボランチとして必要としてくれるクラブ」といったようなことであり、柴崎としてはそこが重要だったことがうかがえる。

一方、ヘタフェはこのシーズンは一時CL圏内を争い、結果的に5位でフィニッシュ、翌シーズンのEL出場権を獲得した。
これによって、現在に至るヘタフェの守備戦術は不動のものになったのは明白だ。

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