2021年夏の日本人選手の海外移籍動向、その2。
ステップアップ期待も現状維持
鎌田大地
2017年夏に、サガン鳥栖からブンデスリーガのフランクフルトへ移籍。
移籍初年度は出番を勝ち取れず、翌シーズンにレンタル先のベルギー1部のシント=トロイデンで躍進。
昨シーズンからフランクフルトに復帰すると、トップ下のポジションで定着。2シーズンを経て大きく成長し、日本代表でもトップ下の1番手の座を勝ち得ている。
こちらの記事を見ても分かる通り、昨シーズンオフの段階で鎌田本人としては移籍は考えていなかったようだが、ステップアップのオファーはまったくないわけではない。
フランクルトとしても鎌田は必要な戦力ではあるが、いずれ出て行く選手との認識でいる。シーズン開始直後の移籍市場が閉まるギリギリに、アミン・ユネスをローマから買取オプション付きのレンタルで獲得したのも、そういった事情をよく反映していると言える。鎌田と1トップ下で交代、あるいは2シャドーで共に起用された。
ただ、鎌田は昨シーズンオフの契約延長の際の記者会見で、UEFAチャンピオンズリーグ(UCL)出場に関して「できれば、フランクフルトで出られるのがいいなと思っています」と答えている。また、信頼を勝ち得ているアディ・ヒュッター監督の存在も要因として挙げている。
さて、今期のフランクフルトは悲願のCL出場権獲得に片手をかけながらも、最後に逃してしまった。ヒュッター監督も来期はボルシアMGの指揮を執ることが決まっている。鎌田にとっては、来季もフランクフルトに残留する積極的な要因はなくなったといえる状況。
フランクフルトとしても鎌田は売り時と見ている節はあり、違約金を3000万ユーロ(約40億円)に設定。
シーズン終了間際には、プレミアリーグのトッテナム、ラ・リーガのセビージャといったクラブが話題になったが、どちらも問い合わせのレベルに近く、高額な移籍金を払うつもりはないという噂。
シーズン終了後もトッテナム移籍の噂はさかんにされているが、トッテナムはプレミアリーグを7位で終えており、来シーズンはUCL・UEFAヨーロッパリーグ(UEL)の出場権を逃している。辛うじて来シーズン新設のUEFAヨーロッパカンファレンスリーグ(UECL)の出場権を獲得しているが、これはプレーオフからの参戦であり、そこで負ければ来期は欧州の舞台はなくなる。
そういった事情を鑑みれば、個人的にはトッテナムの移籍はないと思われる。来季はUCL出場を望んでいる鎌田にとってはあり得ないのではないか。それだったら、UEL本戦出場権を持っているフランクフルトに残留した方がマシなはずだ。
よりレベルの高い環境を求めてプレミアへ、それも有力チームのトッテナムなら、という可能性はまったくないとは言えない。ただ、それもインテルをセリエA優勝に導いたアントニオ・コンテ監督就任が破談に終わったことを考えれば、鎌田のトッテナム移籍の線はなくなった可能性のが高いのではないだろうか。
直近の報道によると、「オファーはひとつもない」という強化担当のマルクス・クレシュ役員のコメントもあり、やはりトッテナムやセビージャからは問い合わせ程度の話であり、具体的な移籍に関するオファーではなかったのかもしれない。
鎌田の現状を冷静に判断すれば、5大リーグ内に限れば希望するUCL常連チームからのオファーはまず届かないだろうし、仮に移籍したとしてもレギュラーとしての出場機会を得られるとは思えない。
それであればフランクフルトに残留した方が、レギュラーとして活躍をしてUELにも出場できる。それで課題である「好不調の波」の改善に努めて、それを欧州の舞台で披露するのが得策ではないだろうか。
好調時の鎌田は、間違いなくトップクラブからも注目されている。それがコンスタントな状態を維持できるようになれば、希望するようなUCL常連チームからのオファーが舞い込むようになるのではないだろうか。
焦ってトルコあたりのUCL出場権を持つチームに移籍するよりは、もう1シーズン残留して成長を促したほうがいい気がする。「フランクフルトの王様」といった評価が得られるような活躍を目指すべきだろう。
ただし、移籍市場では何が起こるか分からないので、鎌田に関してはこの先急転直下の移籍があっても驚かない。
遠藤航
2018年夏、浦和レッズからベルギー1部のシント=トロイデンに移籍。
2019年夏、当時ブンデスリーガ2部のシュトゥットガルトに移籍すると、シーズン途中からボランチのポジションを勝ち取ると、そのまま主力に定着。デュエルの強さを武器に、1部昇格に貢献。
今シーズンは、1部に舞台を移してもデュエルの強さでリーグ1位を維持し、チームの中心選手としての活躍。
海外組の選手の中で、遠藤航が今シーズン一番の充実ぶりだったと言って間違いない。
その活躍ぶりからステップアップの移籍があっても驚きはないが、昇格組のチームは9位と躍進。チーム状態が上向いたまま翌シーズンを迎えることを考えれば、移籍をするよりもチームに留まる方の流れだろう。
本人的にも、最終的にプレミアリーグを目指しているようだが、ここでの移籍は考えていない様子。
とはいえ、ビッグオファーがあれば、あるいは…… と思わせるほどの今期の活躍ぶりだった。
現状維持
長谷部誠
2008年にドイツに渡って、ヴォルフスブルク、ニュルンベルク、フランクフルトと渡り歩いて、フランクフルトでの6シーズン目を終えた。
日本代表を引退し、ブンデスリーガ最年長選手にもなり、年末が近づくと引退説が囁かれるようになるのが恒例になりつつある。そこから絶対的な存在感を発揮しては、契約延長を勝ち取っている。今回もシーズン中の3月8日に1年延長の契約を更新、来シーズンもフランクフルトでのプレーを続行する。
ここ2シーズンほど、シーズン前やシーズン中に「長谷部は今季限りで、さすがに引退」というような憶測は必ず流れていたが、個人的には長谷部のプレーやコメントを見ていてまったくそういう感じはしなかった。
今シーズン終盤、「フランクフルトが悲願のUCL出場権を獲得して、来季はUCL中心にプレーをして、それで有終の美を飾るのかな」といった思いもよぎったりはした。
今でも長谷部のプレーはフランクフルトにとって重要なプレイヤーであることは間違いないが、UELで快進撃を進めたチームのリベロで神懸ったようなプレーを披露した2シーズン前が、やはりピークだったように見える。そのシーズンが出来過ぎだったとも言えなくはないが、それに比べると、昨シーズン、今シーズンと徐々に調子は落ちてきている感は否めない。それでも、リーグの中で上位のプレーの質は維持しており、ベテランの技と読みは冴えているのは流石としか言いようがない。
来季は指揮官が交代する中で、どのようなシステム、ポジションになるかが最初の注目ポイントだろう。
川島永嗣
長谷部に負けないほどに、こちらも引退の匂いを感じさせない。
2010年夏にベルギーに渡ると、多くのチームを渡り歩き、一時は所属先も決まらずに欧州撤退かと思われた時期もあった。
ロシアW杯後に所属したストラスブールでも第3GKとしての立場だったが、他GKのケガなどでチャンスを掴むと安定したプレーを披露。控えGKの立場ながら、その後もプレー機会を得ていく。チームからの信頼も十分に得ていて、6月12日に契約を延長。単年ではなく、2年契約という内容に少し驚いた。現在38歳の川島は、40歳までリーグ・アンの舞台に立つことになりそうだ。
日本人のゴールキーパーで、これだけ欧州で活躍したのは川島以外には見当たらない。
個人的には、行けるところまでプレーをして、その後は日本の後進育成に貢献して欲しいと思う。
長友佑都
2010年夏、チェゼーナを足掛かりにセリエAの舞台に立つと、名門インテルへ移籍し、長期に渡ってレギュラーを務めた。
2018年冬に出場機会を求めて移籍したトルコのガラタサライでも優勝に貢献するなど、主力として活躍するも、最終的には戦力外となり退団。
今シーズンはUCLに出場するリーグ・アンのオリンピック・マルセイユに経験を買われる形で所属した。
抜群の活躍とはいかなかったが、控え選手の立場としては及第点と言えるシーズンを過ごした。
個人的には、来季は5大リーグの下位のチームか、5大リーグ外、もしくはJリーグ復帰あたりかと予想していたが、ここに来て来季UELに出場するマルセイユが契約延長のオファーを検討しているという報道が出てきた。レギュラーのジョルダン・アマヴィの契約延長が済んでいることから、来季もその控えとして見込んでいる様子。
長友も、まだまだ引退の匂いを感じさせない。
遠藤渓太
2020年夏に、横浜Fマリノスからブンデスリーガのウニオン・ベルリンへ買取オプション付きのレンタル移籍。
シーズン前半はケガもあり出場機会は少なく、シーズン残り3分の1ほどになってから出場機会が増え、徐々にレギュラーに近い立ち位置で活躍。シーズンを通しての活躍とはいかなかったが、終盤に進むほど尻上がりに調子を上げ、チームの戦力として大いに貢献してシーズンを終了。4月29日に買取オプションが行使されて、完全移籍となっている。
来季も戦力として見られているのは間違いなく、2年目は本領を試されることになるのではないだろうか。
ウニオン・ベルリンはブンデスリーガを7位で終えて、最終節で来季新設のUECLリーグの出場権(プレーオフから)を得ており、プレーオフを勝ち抜けば欧州の舞台への参加となる。