東京五輪初戦、南アを相手に久保のゴールで勝ち星

東京五輪グループAの日本は、南アフリカ、メキシコ、フランスと同組になり、7月22日に初戦の南アフリカ戦が行われた。

スタメンとメンバー構成

スタメンは、冨安健洋が左足首の負傷でメンバー外ということで、代役は板倉滉が努めた。右太ももを痛めていた三笘薫もメンバー外。
左サイドバックに中山雄太、左サイドハーフは三好康児が入った。この2人のチョイスは、AFCに参加していた旗手怜央と相馬勇紀のコンディション面に配慮したのか、あるいは連携面といった理由からだろうか。
他は軒並み想定されていたメンバー構成で、OA枠3人とA代表常連の堂安律と久保建英は定位置。
板倉滉がセンターバックに入ったことで、ボランチは遠藤航の相方に田中碧。
ワントップには、林大地が入った。
GKは谷晃生。直前2つの調整試合の1試合半に出場、しかもスペイン戦に先発、といったことから見ても、谷を主軸に大迫敬介は控えという序列で五輪を戦うことに決めたと見ていいのだろう。

試合展開

南アフリカは、結局試合開始から引き分け狙いだったということなのだろう。
序盤から日本が攻め込む状態が続き、南アはほとんど5バックの状態に引いて、ゴール前を厚く守る展開。日本が攻めあぐねた面もあるが、いくつかあったチャンスを決めきれずにスコアレスのまま前半が終了。
南アの攻撃は人数をかけていないこともあるが、日本の守備陣が的確に対応して、チャンスらしい場面は皆無。前半終了直前にゴール前まで攻め込まれ、CKからのクロスがそのままゴールに向かうも、谷がしっかりと対応している。

後半開始時にメンバー交代もなく、前半と同様の展開が繰り返される。
ようやく均衡が破れたのは71分になってからで、久保のゴールで日本が1-0とリードする。
南アとしては、そのまま守備的にゲームを進めても負けが確定するだけなので、ここからようやく攻撃に転じる形。79分に初めての交代を行うが、あるいはこれが方針転換の合図だったのかもしれない。以後、日本のゴール前まで攻め込む展開が見られるようになり、全4本中のシュートのうち、3本のシュートが、ここから試合終了までの間に放たれた。
日本は落ち着いて守りきり、1-0の勝利で勝ち点3を得た。

相手が引いて守っていることもあるが、日本が一方的に攻め込む展開が続いたのだから、もう1,2点取ってもおかしくはなかったと思う。
三好がGKと1対1の場面や林にもゴールを決めるチャンスはあった。少なくとも3つくらいは、ゲームの流れからゴールゲットのチャンスはあったはずだ。
あとは、こういった展開であれば、何よりセットプレーからのゴールが欲しかった。3月のU-24アルゼンチン戦の2戦目で、久保からのCKを板倉がヘッドで2発決めたような感じで。このゲームは板倉も出場していたし、吉田麻也や酒井宏樹のようなターゲットも居る。
日本はアジアカップなんかを見ていてもそうだが、相手に5バックで引いて厚い守備ブロックを形成されると、それを打ち破るのが得意ではない気がする。ここを打開することが、今後の課題だと思うし、特にアジアで戦う上では、ひとつ重要なポイントになってくるだろう。

前半のうちに1点とって、後半追加点を加えるようなゲームの流れが理想的だったが、そうなればゲームは違った展開を見せていただろう。
今日のゲーム終盤を見ても分かる通り、南アは1点リードされれば負けないために攻撃に転じてくる。後半から攻撃も重視して反撃してきただろう。
しかし、そうなればゴール前の厚い壁も薄くなることを意味し、日本が追加点を上げるチャンスも同時に生じてくる。南アが先に1点取って1-1の引き分けに持ち込むか、日本が追加点を上げて2-0と突き放してゲームを決めるのが先か、という展開になったはずだ。

久保のゴールは申し分ない、2つの意味で良かったと思う。
ひとつは、本人も「決めるなら自分しかないと言い聞かせて」とコメントしている通り、自分のゴールで勝利を決めたことが大きい。久保は才能的には申し分ないが、これまで十分ではなかったのは「自分の力でチームを勝たせる」という面だ。
昨季のマジョルカでは、後半戦でチームの要の存在にはなれたが、チームを勝たせるというところまでには至らなかった。結果、マジョルカは惜しくも2部に降格して涙をのんだ。今季のビジャレアル、ヘタフェともにチームの要にはなれておらず、当然そこまでには至っていない。
このチームでは久保は間違いなく中心選手であり、その役割が期待されている立場でもある。この南ア戦では、まずひとつ証明することができたはずだ。

もうひとつは、このゴールは、久保の課題だった点を克服しつつあるのが見て取れたことだ。

こちらの記事で述べたとおり、久保のシュートはまだまだで改善すべき点があると個人的には思っている。
このゴールでは、右サイドから左足で放ったシュートにカーブがかかっており、いわゆる「巻いたシュート」が打てている。「ボールを持ったらファー狙おうと決めていた」とも言っているが、サイドからファーに打つなら、巻いたシュートは必須と言える。
「まだカーブのかけ方が甘いかな」とも思うが、シュートの面で成長の過程に入ったと考えれば、今はこれで十分かもしれない。

今後の展望

日本の次戦は、フランスに4-1で勝利したメキシコ。
メキシコに勝利しても、裏カードの南ア対フランス戦の結果次第ではグループリーグ突破はまだ決まらない可能性もあるが、勝利できれば突破の可能性は相当に高くなる。
引き分けでも、フランス戦は優位な形で迎えることができるだろう。
負けた場合は、フランス戦は勝利が絶対条件になったうえで、得失点差での勝負になる可能性が高い。
メキシコに勝ってグループリーグ突破を手繰り寄せたいし、最悪でも引け分けが欲しいが、それは相手のメキシコにとっても同様だろう。

選手起用に関しては、冨安健洋の故障が明らかになったことで、不安が生じている。
急遽代役となったのは板倉で、代役の不安を感じさせない出来栄えを見せたが、この試合はあまり攻め込まれる場面が少なかったことは考慮せざるを得ない。板倉は所属元のフローニンゲンではセンターバックを努め、今季はフル試合出場もしているので、大きな心配はないとは思う。
ただ、板倉がセンターバックに専念してしまうと、ボランチのローテーションに支障が生じる。遠藤と田中の2人が出ずっぱりというわけにはいかないので、板倉以外のボランチ要員というと、中山になる。
個人的にはボランチとしては、中山よりも板倉のほうがいいと思うし、板倉はこのチームではセンターバックよりもボランチのほうが適任だと思われる。
色々なことを考えれば、冨安の代役は町田と瀬古歩夢にがんばってもらって、板倉はボランチ要員に専念させたほうがいいと思うが、どうだろうか。

次のメキシコ戦も冨安は間に合わない見込みで、森保監督が代役に誰を起用してくるが、ひとつの見所になるだろう。
初戦の南アは引き分け狙いで引いた時間が多く、日本の守備陣としてはある種楽な展開だったが、メキシコは勝ちを狙って攻め込んでくることが予想される。ディフェンスの真価が問われるのは、この試合からになるはずだ。

冨安に関して言えば、実はセリエAの終盤の試合の様子を見て、「もう五輪のメンバーからは外してしまったほうがいいのではないだろうか」と思っていた。
というのも、セリエA第29節で負傷交代した際に、ミハイロビッチ監督は「彼はなぜモンゴル戦に出場しなければならなかったんだ!」と怒りをぶちまけたという話だ。
直前の3月の代表戦、親善試合の韓国戦にフル出場したあと、アジア2次予選のモンゴル戦に71分間プレー。モンゴル戦は実力の差が明らかで、日本は0-14の大差で圧勝している。日韓戦はまだしも、モンゴル戦は冨安を使うほどの試合ではなかったのではないか、ということだ。
その後、復帰した第34節は高評価のプレーを見せたものの、第36節から最終節までの3試合は低調なパフォーマンスに終わり、メディアからは酷評された。負傷の影響は明らかで、その様子からすると、五輪で無理をするよりも、メンバーからは外してしまって、回復のために休養を与える必要があるのではないかと思っていた。
今回の故障箇所は左足首ということで、ボローニャで負傷した右足とは逆だが、右足をかばって、あるいはオーバーワークによる疲労ということは十分に考えられる。ちなみに、セリエAでは第23節にイエローカード2枚で退場するまで、全試合フル出場を続けていた。その後も負傷にる欠場は多少あったが、セリエA全38試合中31試合に出場し、そのほとんどがフル出場か、それに近い時間プレーしている。
個人的には、冨安は遅まきながらもメンバーから外してしまって、休養に専念させた方がいいのではないかと思う。
ただ一方で、初戦の他の試合の様子を見るに、ブラジルの攻撃陣は強力で、あれと当たっときには吉田、冨安、酒井と万全の守備体制を敷かないと耐えきれないのではないか、とも思わせた。
悩ましいところではあるが、冨安のコンディションと今後を考えれば、森保監督は大胆に決断できるだろうか。

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